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浮気相手に大金を!?

江戸時代のスーパーウーマンを描いた文楽作品「心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)」について、次世代を担う文楽太夫の一人、豊竹咲甫大夫さんが紹介する。

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 いよいよアメリカ大統領選が十一月に迫ってきました。民主・共和両党の候補者選びが熱を帯び、日本でも連日報道されています。中でも注目は女性初の大統領を目指すヒラリー・クリントン氏ではないでしょうか。

 これまで女性は社会でいくらキャリアを積んでも、見えない障害に阻まれて組織のトップになることができない、いわゆるガラスの天井があると言われてきました。ヒラリー氏はファーストレディー時代に夫の不倫スキャンダルを乗りこえ、自身も国政に進出したスーパーウーマン。そんな海の向こうのミセスが頑張っているなか、三月地方公演では、ミセスが大活躍する心中天網島が上演されます。

 心中天網島は、近松門左衛門が1720年に起きた心中事件を元に書き上げたものです。舞台は大坂・天満の紙屋。主人の治兵衛は商売に身を入れず、廓(くるわ)通い。曽根崎新地の遊女・小春と深い仲になり、心中を誓い合っています。ゲスの極みのような夫の代わりに、二人の子どもを育てながら商売を支えていたのが、妻のおさんでした。

 この紙屋は間口が六間(当時の大坂では約十一・八二メートル)あり、江戸時代は間口の広さに応じて税金の額が決められていたことから、相当な商いをしていたと考えられます。

 おさんは大商家に嫁いだ女性だけあって肝が据わっていました。治兵衛が小春と心中する気だと分かると、不倫相手の小春に治兵衛と別れてほしいと手紙を出して根回し。小春に自分の気持ちを汲み取らせて治兵衛との縁を切らせます。傷心の治兵衛が店のコタツに入って泣く姿を見つけると、まだ未練があるのかと叱りつけました。

 しかし、治兵衛の涙の理由が、小春への未練ではなく、恋敵だった太兵衛という男に小春が身請けされる悔しさからだと知り、おさんは愕然(がくぜん)。今度は常人では考えられない行動に出ます。

 小春が治兵衛に愛想を尽かしたのは私が手紙で頼んだからであり、他の男の身請けを望まない小春はきっと自害するに違いない。ここで助けなければ小春への義理が立たず、夫の体面も保てないと、身請けの金を用立てることを決意。自分や子どもの着物を質に入れるために箪笥(たんす)から衣類をかき集めて風呂敷に詰め込むのでした。

 そのときのおさんの気持ちは「私や子供は何着いでも男は世間が大事」の言葉の通り。また、治兵衛が小春を身請けすれば、自分は「子供の乳母か、飯炊(ままた)きか、隠居なりともしませう」と言い放ちます。

 人形浄瑠璃の世界で、井原西鶴は男性の視点で物語を描いたのに対し、近松門左衛門は女性目線で繊細な心情をすくいあげるのがうまく、近松の心中物によって客層が男性から女性へシフトしたと言われています。不条理な状況に置かれても、絶対に夫の顔を立てる、家を守る。おさんの商家の嫁としての覚悟は、多くの女性の共感を呼んだに違いありません。

 アメリカ大統領選の行方も気になりますが、江戸時代のスーパーウーマンの活躍も見逃せませんよ。  (Yahoo!ニュースより引用)

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